FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←愛さずにはいられない 66 →愛さずにはいられない 68
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png 中編
総もくじ  3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ  3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 更新のお知らせ
  • 【愛さずにはいられない 66】へ
  • 【愛さずにはいられない 68】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「愛さずにはいられない」
第三章 愛さえあれば

愛さずにはいられない 67

 ←愛さずにはいられない 66 →愛さずにはいられない 68


「悪かったな、時間取らせて。」

司が腕時計に目を落としつつ、詫び入れた。
カタン、と音を立て椅子から立ち上がり、飲み干した空き缶をゴミ箱へと放り投げる。
缶は弧を描いて宙を舞い、目標に達した。
それと確認すると、再び踵を返して類の方へと視線を合わせる。
先ほどから真っ直ぐに自分を見据えていた類の瞳が、迷いを含んだ色へと変化していた。
何か言おうとしていることが上手く言葉にならない、と瞳に書いてあるかのように類の気持ちが手に取るように分かる。
先ほど、この5年間の事を自分はあまりに端折って話しすぎたのかもしれない。

自分の親友の一人が、6年前に女をレイプして、それと同じ年月、その女を肉体的にも精神的にも激しく痛めつけて、追い詰めて、さらには女にとって何よりも深い傷となって残る流産まで経験させて。
そのせいで、これまでの記憶を全て失い、幼児程度の言語力や思考力しか持ち合わせていないなんて、何をどうすれば理解出来るのだろう。
挙げ句の果てには、その女というのが、自分が今でもしつこく執念深く想い続けてる女性と同一人物だなんて、類にはとてもにわかには信じられない___というよりは出来ることなら信じたくない話のオンパレードだろう。

「記憶___

類が何かを思い出したようにポツリと呟いた。

「記憶、いつ戻ったの?」

「__記憶?」

「__牧野の記憶。いつ思い出したの?」

類の瞳が今度は何の迷いもなく、凜とした佇まいを持ちながら自分を見つめ直す。

「俺は__というか俺達は、お前が牧野の記憶を無くしてから再び付き合いだしたときに、お前は牧野の記憶を取り戻したんだと思ってた。
だってお前は__あれ程牧野の事を毛嫌いしてたから。
牧野の記憶を無くしたままのお前と牧野がどうこうなるとは、正直全く思ってなかった。」

毛嫌い、とは少し違う。
嫌いだったのではなく理解出来なかっただけ。
突如心に生まれた感情の名前と、その意味を。
むしろ、司は怯えていたのかもしれない。
理解出来ない感情に自分が支配されて、心を浸食されるのを。
臆病だから、全身で拒否反応を示して。
恐れをなしたから、暴力によって阻止しようとした。
確かに、怖かったのだ。
愛することを、それが出来ることを認める事は、これまでの自分を否定することだったのだから。

「・・・・覚えてる?
お前が毎日しつこく見舞いに来る牧野に苛ついて、俺らの目の前で髪の毛引っ掴んで部屋から追い出したこと。」

記憶の糸を手繰り寄せていくと確かにそんな一場面もあったような気がする。
自分のために、学校にバイトに、疲れた身体を引きずって毎日見舞いに来てくれたつくしに何故そこまで酷な仕打ちが出来たのだろう。
過去の自分を今すぐに絞め殺したい衝動に再び駆られる。

「いつも通り、牧野への罵声つきで。
あれ見たとき、流石にもうお前らは修復不可能かなーって思ってた。
その次の日、牧野がもう別れなきゃいけないんだよねって、けじめつけなきゃって信じられないくらい泣きじゃくって。
一方的に終わらせられちゃうなんて、すごい悔しいから、最後の意地で、せめて自分から終わらせるんだって強がって。
正直、見てられなかったあの時の牧野は。」

「・・・・・ああ、覚えてる。
あいつが__牧野が帰った後思い切りお前に殴られたからな。
忘れてねえよ。」

「・・・・・あれ?そうだったっけ?」

「とぼけてんじゃねーよ。
あん時死ぬほどむかついて殴り返してやろーと思って、総二郎とあきらに止められたけど、今から考えりゃお前の怒りも当然だよな。
つか、今の俺があの時に戻れんなら俺だって殴ってる。」

「過去の自分を__ってこと?」

「ああ___殴るだけじゃ足んねえな。
もしそうすることが出来るんなら、何の迷いもなく殺してるだろうな。
自分の事を。」

「・・・・・まあ、結局は屈折してんだよね、司って。
俺もよく感情が欠落してる、とか言われてたけど、お前ほどじゃなかったよ。
今でもそう思うけど。
・・・・俺の場合は、昔から感情を揺さぶられるのはいつだって牧野に関することだけだった気がするけどね。」

「___俺だってそうだろ。」

再び司の視線が類の瞳を射貫く。
確かに、それはその通りかもしれなかった。
つくしがいなければ司は人を愛することを理解出来ていなかった。
それは類も然りなのかもしれないが。

幼少期に母親からの愛情を正しく受けることが出来ずに、愛情が何たるかを理解しないまま、身体だけ成長していった。
人を愛すことが理解出来ないのは、人の弱さだとか、もろさだとか、痛みを理解出来ないのと同義だ。
そしてそれこそが、彼の心根を屈折させ、果ては退屈しのぎに『赤札』などという幼稚で残酷なゲームを提供させたのだろう。

「俺だってあいつがいなけりゃ__つか、あいつがいなきゃそもそも人間で何かいられねえ。
殴り合って啀み合う事でしか晒せなかった心にあいつ程真っ正面から飛び込んで来た人間はいなかった。」

それでも、そんな彼だから、愛情を受けることを渇望して、一人で取り残されることを何より恐れたのだ。
示し方は大いに間違ってはいたが、司がつくしを縛り付けて雁字搦めにしていたのだって、歪んだ愛情表現の一種だったのかもしれない。
彼は知らぬ間に飢えていたのだ。
愛することと、それを享受することに。
いつか捨てられてしまうかもしれない不安に気付かないフリをしながら、結局依存していたのはつくしだけではなく、司もまた同じだったのだから。

「___馬鹿だよね。」

「・・・・・あ?」

「馬鹿だよ、お前ら二人とも。
とっくに手に入れてるものをひたすら求めて。
どんなに求めても見つからないはずだよね___だってそもそももう手に入れてるものなんだから。」

グシャリと手の中の空き缶を握りつぶして、ダストボックス目掛けて司と同じようにシュートする。
それと認めると立ち上がってちょっと司に微笑みかけた。

「__じゃ、俺帰るね。___つくしちゃんによろしく。」

「つくしちゃん・・・・?」

米神に再び青筋が張り付きそうになった司だったが、すんでのところで自分を抑える。

「だってつくしちゃん、でしょ?
あれはどう見ても牧野ではないじゃない。」

「おい、るい___

「また来るね。」

司が言い終わる前に遮るように手を挙げて制した類が、クルリと踵を返してラウンジを後にする。
司はかつての恋敵の後ろ姿を眺めながらも、先ほど類に諭された言葉の意味を、まだ理解しきれていないでいた。


0574 Web Site Ranking

にほんブログ村 二次小説

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ 3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png 中編
総もくじ  3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ  3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 更新のお知らせ
  • 【愛さずにはいられない 66】へ
  • 【愛さずにはいられない 68】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛さずにはいられない 66】へ
  • 【愛さずにはいられない 68】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。