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「ガラスの林檎たち」
第一章 誰にも言えない

ガラスの林檎たち 3

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あまりにも信じがたく受け入れきれぬ事が起こったとき、人間の思考というのは「上書き保存」を押し忘れたデータの如くまっさらになるのだろうか。
半分もやのかかった脳に反比例していくかのように明瞭になりつつある眼前の現実は防ぎ止めることを知らずにダイレクトに司の心を抉り出す。

懐かしい痛みだった。

時間だけが後戻りしていく感覚と全てがフェードアウトしていく錯覚。
残酷なまでに妖艶で、冷酷なまでに美しい目の前の少女の姿だけが妙に印象に残った。

「まきの・・・・・。」

使い物にならなくなった口が自分の意思に反して独りでに言葉を紡ぎ出す。
それは確かな棘になって司に突き刺さった。
その名を音にすることがこれ程恐ろしいことだったとは。
その名を紡ぎだすのがこれ程まで自分を徹底して痛めつけることだったとは。

「牧野・・・・・・。」

自分でも驚くほどにその音に憎しみや軽蔑の負の感情は入り交じらなかった。
寧ろ助けを求めて懇願するかのような弱々しく頼りげのない声。
何て情けのない声だろうと心の中では自分を叱咤してみるものの、みっともなく震え出さないように声を抑え付けるので精一杯だった。

「まき、の・・・・・・?
あの・・・・・・道明寺さん・・・・・?」

『マキノ』と何かを求めるように切なく囁かれた名が自分に向けられているものと認識した雫が、やや眼を見開き口を開く。

「お前____今まで一体_____

「____司。」

あきらが司の方を見やり、司の思い込みを制するかのように軽く首を振った。
司同様信じられぬと言った表情で雫を見つめていたあきらだったが、司のその声に一瞬早く理性を取り戻し司を制す。

「あの_____どうか、したんですか・・・?
その私が___何か・・・・・?」

雫がほんの少し驚愕の色を混じえた瞳であきらを見上げる。
その仕草が、その振る舞いが、何よりも全身から醸し出るその雰囲気が。
何もかもが、あきらの記憶にある牧野つくしと呼ばれた少女と重ならない。

「___いや、その・・・・君があまりにも僕たちの共通の____友人に似ていたものだから、驚いてしまったみたいで。
・・・・・・・なあ、司。」

司の前でつくしを『共通の友人』で括ってしまってもよいのだろうかと、迷いあぐねたが、兎角同意を得ようとあきらが司に視線を合わせた。

「司・・・・・?____おい、司。」

郷愁に限りなく似た表情を隠すことなく瞳に写す司にあきらの声は聞こえない。
別人だ、もちろん。
少女を表す名も、年齢も、その内面から滲み出る雰囲気も何もかもが牧野つくしとは違っている。
それは、思考という思考を過去に置き去りにしてしまったかのような司でも容易に理解出来ることだ。

他人の空似。

姿形はつくしに瓜二つだからと言って、目の前のこの少女は本来ならば司の目に止まるような人物ではないだろう。
人見知りの性格が顕著に表れた弱々しい、と言うよりおどおどした瞳も、どこか遠慮がちな俯き加減の佇いも、本来ならば司を酷く苛つかせる筈なのに、何故か司は目の前の少女から目を離すことが出来なかった。

もしもう一度彼女が自分の目の前に現れたら___そう考える時はいつだってあらん限りの罵倒の言葉を吐いて、彼女の持ってる大切なものなんぞ全てをめちゃくちゃにしてやると息巻く自分だけがいた筈なのに___いざ彼女を、彼女の姿を模した人形を見つめれば、そんな考えは思いも寄らない位有り得なくて、不可能な事のようにも思えた。
彼女の姿を象っただけの人形でもいいから、その身体を抱きしめたい。その身体に抱きしめられたい。
みっともなくても情けなくてもいいから、とふと司は目の前の女に縋り付きそうになる自分がいることに気付く。

「____司君?___どうかしたのか__?」

雫を見ているのか、雫を通してある一点の過去を見つめているのか。
迷いあぐねたあきらが、再び司に呼びかけようと口を開いた刹那、流石に司を訝しく思った貴之が尋ねる。

「___司君?」

貴之が二回目に発した自分の名が、司の意識を覚醒させた。
不意に現実に戻されたかのような司が我に返り、まるで貴之の存在など今認識したのだと言うほどに、貴之を見つめる司の目には驚愕の色が入り交じっていた。

「あ・・・・?___あ、ああ___いえ、その___

意識は未だ宙にでも漂っているのか、貴之への反応が遅れ、返事もしどろもどろになってしまう。
自分が恋い焦がれた少女によく似た顔かたちというのはビジネスやなんかで培った仮面をいとも容易く剥がしてしまう力があるのか。
それが、彼女の形を模しただけの人形だと知っているのに。

「__はは、流石の司君も最近ではお疲れなのかな?
副社長就任で張り切るのも分かるが、健康管理だけはしっかりしないと。」

口調は冗談めかしていたが目は笑っていなかった。
それどころか何かを探るように司に視線を合わせる貴之に僅かに司の脳もビジネスモードに切り替えられる。

「___お気遣い感謝します。
・・・・・その、雫さんがあまりにも美しくて、つい見惚れてしまいましてね。
___情けない醜態です。」

「これはこれは、光栄だね。
まあ、誰だって自分の娘が一番だと豪語するものだが___うちの娘は特別だよ。
特別美しく、特別可愛らしい。
この娘は中々頭の方もよくてね___学年の中でもずば抜けていて、親の私が言うのも何だが何というか___

「・・・・お父様、道明寺さん困ってらっしゃるわ。」

クイ、と貴之のスーツの袖を引き、雫が父を制した。
自分の自慢話を、ことに自分の前でされるのは流石に居たたまれないとでも言うように眉を下げながら。

「__いいえ、僕もそう思いますよ。とても_____。」

その言葉にもほんのり俯き、微笑をたたえる女からは、何かにつけて大げさなまでに感情が豊かで、すぐに顔を赤らめた少女と同一人物には見えなかった。

「__ははは、司君のお眼鏡にかなうとは、うちの小さなお嬢様も大したもんだ____

「お父様___

先ほどよりも口調を強くした雫が再び貴之を制した。
さしもの雫も恥ずかしさからか若干顔を赤くする。

「そうそう、司君。
この後のワルツだがね___是非うちの娘と踊っていただけないだろうか。
娘にしても何よりの記念になるだろうし___

喰えない微笑に隠された貴之の魂胆なぞお見通しではあった。
NYにおいても何かに付けて娘を司に売り込もうと腹黒い画策を試みる輩ばかりだったのだから、こんなことくらい山ほどあったことの中の一つの筈だ。
めんどくせえと心の中では悪態を吐きながらも、表情には出さずに丁重に断りの申し出を入れるのがセオリーの筈なのに。

「___ええ、是非。」

何故____目が離せないのだろうか。
自分を捨てた憎悪すべき女によく似た少女から。



矢庭に、あの日自分を無残に捨てた少女と、目の前の少女が遂に重なった。
それとともに、過去より送られてくる自分の確かな思考回路。
眼前の現実が急に光を帯び、周りが見えない。何も聞こえなくなる刹那。

あの日のつくしの言葉がリフレインする。

___もし、あんたを好きだったらこんなふうに出て行かない。

今まで何度も何度も繰り返し脳裏に過ぎった彼女の姿が。
今、こんなにも明瞭に。こんなにもクリアに自分の眼下に現れる。

____さよなら

不意に一種の悪意にも似た感情が自分の胸に込み上げる。
その少女を真っ正面から見つめるのに多少の怯えがあるのは、再び彼女の存在が虚栄のものだと知らしめられるのを恐れてのことだろうか。

ざわめき始めた背景の中で、目の前の少女にまだ消えないでと懇願するかのように、何かを払拭するかのように司が少女を見つめ直す。
驚くほどではない展開だと知っているにも関わらずほんの少しだけは、と自分らしくない期待を込めながら。


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