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「ガラスの林檎たち」
第一章 誰にも言えない

ガラスの林檎たち 9

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灰色の雲が燻る空を見上げながら、雫が鬱陶しい何かを振り払うかのように溜息を漏らす。
幸い雨は降っていなかったがこの雲行きではいつそうなってもおかしくはなさそうだった。

____やっぱり、普通に帰ればよかったかな___

ほんの少しでも帰宅の時間を遅らせたかった雫はいつもの車での送迎を断り、徒歩で帰路へと着いていた。
授業修了のチャイムがあれ程までに恐ろしく感じたのはいつ以来だろうか。
邸へ帰れば嫌が応にも恵と接触しなければならない現実を考えれば自然と足取りも重くなる。
雨が降り出すか降り出さないかくらいの煩わしい天気がちょうど今の自分の心情を物語っているような気がして反吐がでそうだった。
もう一度深い溜息を吐き、公園を通り過ぎようとした刹那___ふと胸の奥に小さな違和感を感じた。

「___うっく___ひっく・・・・・うえ___」

___子供の__泣き声?

周りを見渡せばブランコの辺りで躓いてしまったのか地べたに伏しながら泣きわめいている子供の姿が視界に映る。
何を叫んでいるのかはよく分からないが、兎角誰かに助けを求めている様子は見てとれた。
素通りしてしまうか迷いあぐねたが、見てしまったものをこのまま知らん顔するのも何だか居たたまれない。
何かを払拭するように潔くブランコの傍へかけよろうとした刹那__ベンチの端の方から母親___だろうか、それらしき女性が慌ててかけってくるのが目の端に映った。
まだ何やら泣きわめいて叫んでいる子供をすぐさま抱き込み、存在を確認するかのように抱きしめる。
痛みから、というよりは転んでしまったこと自体に驚きショックを受けているであろう子供を落ち着かせるように背中をポンポン、と叩き、慰め、あやしている母親の姿。
遠目からでもはっきりとわかるほどの慈しみを持った眼差しで子供を見つめながら。
次第に子供の方も落ち着いて来たのか、母親の言葉にうんうんと頷くと、地面へと下ろされ、再びブランコの方へと走っていった。
自分の母親の愛情の籠もった眼差しは一身に受けたままに。


普通に見れば微笑ましく頬が緩む光景であるが、この瞬間、間違いなく雫の瞳に昏く鋭い光が燻った。
それと殆ど時を同じくして雫の脳裏にあるイメージが蘇る。


つんざくような悲鳴を上げながら泣きわめく赤ん坊の声。
大声を上げながらはしゃぎ回る男の子たちの声。
女子特有の甲高い声を出しながらも何やら内緒話に勤しんでいる女の子たちの声。


振り返り思い返せば自分の居た場所は止めどなく子供の声と赤ん坊の声が響き渡る賑やかな___雫にとってはやや騒がしかったが_____人に囲まれる温かさは感じても独りで居ることに寂しさを感じるような、そんな場所では絶対に無かったはずなのだ。
目を瞑れば、まるで昨日のことのように容易にイメージが蘇る、強烈で、鮮烈で、そして雫にはやや生命力に満ちあふれすぎている、自分はここにいてよい存在じゃないのだと無言のうちに問いかけられるようなそんな場所だった。
最も強烈に脳裏に再生されるイメージは、いつもと寸分変わらない、いつも通りに、あっという間に、自分の頭を支配してしまうある一つの映像。

皆の輪に入れずに__入ろうとする気も毛頭なかったのはもちろんだが___部屋の隅の一番端の、一番奥に蹲る自分の姿。
いつ、いかなる状況に陥ってもこれだけは未だに色さえ持ちながら自分の脳内にこびりついて再生され続ける。

周りの子供たちより、いくらか年齢が上だった。
周りの子供たちより、いくらか身体が大きかった。
周りの子供たちより、いくらか『自分』に対する確固たるイメージを持てていなかった。

例など挙げようと思えばいくらだって上げられる。
彼女がそれ程までに在り来たりな理由で疎外感を感じ続けていたとしたら、あるいは今現在の彼女はこれ程までに孤独感を引きずっていなかったのかも知れない。

____もし、そんな在り来たりな理由であったら__だ___

無論彼女の孤独を形成しているのはそんなものでは決してなかった。
もっと彼女の奥底にある、もっと根深い何かが原因だった。
もっともっと彼女自身を作り上げている何か_____。
そんなことくらいは彼女もとっくに気付いていた。
自分の居る場所はここじゃない。
理屈とか、そんなものは一切抜きにして、ただただ根本的に何かが違う気がした。

私が居る場所はここじゃない。

あの時自分の頭の中で何度そのフレーズを反復しただろうか。

ここじゃなくて
何かが違っていて
でも誰にも言えなくて
伝えられなくて
伝える気もなくて
でも誰かには知っていてほしかった

気が触れてしまうかと思った。狂ってしまうかと思った。
壮絶なまでの孤独。
ここがどこで、自分は何者で、どういう理由でここにいるのか、探求しようとする気も起きないくらい孤独で孤独で孤独すぎたのだ。
生きてるのか死んでいるのかすらあの頃の自分にはっきりと問うことはできない。

ここはどこなの?自分が居ていい場所なの?
自分は誰でどんな人間なの?いい人?わるいひと?寂しい人?幸福な人?
どうして自分は独りなの?どうしてこんなに窮屈に感じるの?どうしてこんなに居心地が悪いの?
ねえ教えてよ。早く教えて。早く。早く。早く。
どうしてなの?どうして?どうして?どうして?


ドウシテドウシテドウシテ______

ドウシテワタシハイツモイツモヒトリデナイテイルノ

誰にも打ち明けられずに、壮絶な孤独の中で抱えた疑問はこれから先も消えることなく自分の胸に巣くい続けるのであろう。

ああ、自分がどれだけ幸福の中に身を置いたとしても、この疑問は、ひいては自分の存在そのものの疑念は、決して自分を離してはくれないのだ。
それだけではないはずだが、雫が幸福を苦手とする所以もそこにある。
幸福に接しているときより失ったときの恐怖をなにより恐れ、敬遠してしまうのだ。
何かを手にすることは何かを失わなければいけないものだとはっきりとした自覚があるからかも知れない。
幸福を遠ざけるのはいつかそれを失うのが怖いから。
皆の輪に入らないのはいつか独りでつまはじきにされることを恐れるから。

『何かを失うくらいなら初めから何も要らない。』

それが彼女を構成する核の大部分であった。


雫は先ほどよりより燻りくすんだ自らの心に栓をするように唇を噛みしめ再び歩き出した。
昏く鋭い光を灯した瞳はそのままに。

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