「ガラスの林檎たち」
第一章 誰にも言えない

ガラスの林檎たち 12

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___お腹が空いたな。

互いに快楽の渦へと沈めあい、追い落とし合った熱も次第に冷めていき残ったのはシャワーを浴びる気力もないほどの疲労と、いいようにいたぶられた身体の中心に残る僅かばかりの痛みと、昼から何も食べていないせいかようやく姿を現した食欲だった。
身体にシーツを巻き付け、立ち上がると中央に備え付けてあるテーブルへ脚を運ぶ。
手前のソファーに無遠慮に座り、足を組んだ。
先ほどから放置してあったコンビニの袋からゴソゴソと探るように中を漁り、男の食べかけの菓子パンと飲みかけのジュースを取りだし一心不乱に貪り始める。

「__うえ、よくお前、人の食べかけなんて食えるな。
女って普通そーゆーの、デリケートなんじゃねえの?」

男が非難したような目つきになるも、つくしはちらりと一瞥しただけで馬鹿にしたような含み笑いを湛えて、ジュースを飲み干す。

「、、、関係、ないでしょ。そんなの。お腹空いてるんだもの。しょうがないじゃない。それより___。」

「それより?」

悪戯っぽい顔でつくしの隣に座り込み、肩を抱いた男が笑いかける。

「お金、三万円。」

「__抱き潰して、そのままずらかろうと思ったのによ。
そうもうまくいかねえってか。」

下品なニタニタした笑い方を抑えようともせずにヌケヌケと言い募る男に辟易したがもらうものをもらうまではこちらも引き下がるわけにはいかない。
つくしが相手にしてきたまともでない男の中にはこういう考え方をするものも勿論多かったし、実際抱くだけ抱いて金は払わずトンズラされて溜飲を下げる思いをしたことが何度かあるのだから。

「__ん!」

キッと男に視線を合わせて、強請るように左手を差し出す。
男の方も観念したように首を振り、ベッドサイドから財布を取り出すと丁度三枚万札を抜き取りつくしに渡した。

「ありがと。」

つくしもつくしで満足げに微笑み、スクールバッグに乱暴に投げ込むともうここへは用はないとでもいうように潔く立ち上がり、ベッド脇に投げ捨てられた下着をさっさと身につけ、制服のブラウスへ手を伸ばす。

「おいおい、もう出てくのかよつくし。
やることやるだけやったら終わりって?
そりゃあないぜ。」

「__じゃあ、何?
ここでおしゃべりでもしてろって?
、、、そんなオプション知らないわ。
代金上乗せしてくれるなら考えるけど。」

相変わらず冷てえ女、と苦虫を潰したような顔になる男に、即座に甘えるように頬にキスを落とした。

「__親には、友達との勉強会っていってあるから、流石に帰らなきゃ。ほんとはもっとあなたとの時間を楽しみたいところなんだけど。」

首を傾け、ニコリと笑う彼女に瞬間機嫌を直した男が、軽く啄むようなキスを唇に落とし、ようやく彼女を解放する気になったとでもいうように頷く。

「、、、、つくし、お前ケー番教えろよ。」

「__ん?」

「メアドでも、どっちでもいいけどよ。」

「__ああ、携帯、家に忘れて来ちゃって。
それにメアドも覚えてないし、また今度ね。」

まあもう一生会うことはないだろうけど?
と心の中で付け足しながらも営業用のスマイルは崩さずにホテルを後にした。
今ひとつ納得のいかない表情をした男を残しながらも。

財布ならともかく、携帯を家に置き忘れるような女子高生が果たしているだろうかと自分でも都合のいい言い訳だとは思ったが咄嗟のことだったので仕方がない。
大抵ああいう男たちは一晩寝た女にはすっかり興味が失せるのか、アドレスを聞かれるだとか、余韻に浸っておしゃべり、なんてのはあまり例のないことだったのだから。

___まあ、割と身体の相性は合ってたかなあ

そう心の中で独りごちながらもスクールバッグに投げ入れた三万円をおもむろに取り出し確認する。

____なんでだろ。こんなの、いつまでこんなのに執着するんだか。

四年前に施設にいた頃とは比べものにならないくらい自分は裕福になった。
その自覚がないわけでもないし、普段は殆どカードで現金を見る機会なんてそうそうない。
その自分が何故たかだか__そう、たかだかという副詞を付けられるようになった、三万ごときのはした金にこだわったのだろう。
それは多分「男」を教えられたときについた悪癖というか、悪習なのだろうが。

あの居心地の悪い施設にいた頃は今とは比較にならない程の問題児で、何度も脱走を繰り返しては連れ戻され、挙げ句の果てには警察のお世話になったことだって何度かある。
最も、一度たりとも暴力沙汰なんぞを起こしたことはなかったのでテンプレ通りの不良だったつもりは毛頭ないが。
食べるものがなくて、どこかの通りのゴミ箱をあさって何かを口に入れた。
どうしても衝動を抑えきれずに、ひと箱のクッキーを万引きして警察に突き出された。
一度下手を打って売春の疑いでも厄介になった。
お金がないというだけで、施設出身だというレッテルを貼られるだけで、世間というのは自分に対して余りにも冷徹になり、一欠片の情けもかけてくれないものなのだ。
結局のところ、それがつくしが金に執着する所以だった。
一度身についてしまった習慣というのはそうしようという意思がなくてもそう簡単に抜けてくれるものではないから。

初めて『女』がお金になれるのだと知ったときの感動と悦び。
そして自分の肢体を売り物にして得たお金を見たときの何とも言えない充足感。
自分にはそれだけの価値があるのだと、そういわれているような気がして、たまらないほどの満足感を得たのだ。

確かにこの手にあるのだと主張するように手の中の三万円をぎゅっと握りしめると、フッと微かに安心したような笑みを漏らしたつくしが、再びバッグの奥底に現金をしまいこみ、億劫そうな足取りではあったが邸へと向かって歩き始めた。

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