「ガラスの林檎たち」
第一章 誰にも言えない

ガラスの林檎たち 13

 ←更新滞っててすみません! →更新できたっ


夜の街というのはどこへ行っても何とも言えず泥臭い。
洗練されたような雰囲気を醸し出している街も、発展途上のような新しい開発地へと作り直されている街も、そのどちらでもない時代に取り残されたような街も、夜になれば全てが平等になる。
不愉快なほどにわざとらしくネオンの光が舞い、そこで交錯する人間の薄汚さたるや、やはり独特の野暮ったさがあり____垢抜けようとして垢抜け切れていない様が見て取れる気がする。
だからこそ夜の街が与えてくれる機会は誰に対しても平等で、残酷で、甘美なものなのかもしれない。
車窓から見える景色がいつもと寸分違わず、いやいつもより何故か一層不快に見えた道明寺司が微かに溜息を吐いた。
それと同時にこめかみに軋むような違和感を覚え思わず頭を抑える。NYにいた頃にも時折訪れた偏頭痛。
高校までの放蕩生活が考えられないほどに多忙で息つく暇もないほどめまぐるしいスケジュールに追われる毎日で。
最も少しでも暇な時間を持て余しさえすれば余計なことを__高校の頃に愛して止まなかった残酷な少女の事を思い起こしてしまうと、心の奥底ではそれを一番恐れていた。
彼女の夢を見てしまうかもしれない。
彼女の幻覚を見てしまうかもしれない。
何年経とうとも結局は自分の心から一片も消えてくれない彼女を持て余し、そして心から怯えていた。
怯えて、恐れて、畏敬の念すら抱いていたのだ。
そんなことあるはずないと、彼女は自分をゴミと同じように自分から要らないものだと切り捨てた残忍で冷酷でとんでもない女だったと、自分には所詮釣り合うことのないつまらない女だったのだと言い聞かせてきたのに。
彼女より美人な女も、彼女より気性のよい女性も探せば五万といるだろうし、その女たちを手に入れるのに何の苦労もしないであろう自分が、今でも彼女と、その幻影に恐れ、そして縋り付いてしまいそうになる。
彼女の方は遠い昔に友人と天秤に掛けてあっさり自分を捨てたことなんぞ恐らくはもう心の片隅にだって記憶していないだろうに。
NYから帰国してから殆ど意識的に考えないようにしていた、無理矢理振り払っていた彼女を、だんだんと記憶の底に上手く沈められるようになった存在を不意に追憶の彼方から引きずり出されるのは紛れもなく先日に邸で行われた帰国記念パーティーのせいで、もっというとあの女の___城宮雫のせいだった。

___城宮雫、か。

あれだけ恐れていた、怯えていた彼女を完璧と言って良いほど精巧に模した容姿に背格好。
顔が似ると声も似るのか、自分の好きだったソプラノの音色はそのままに。
だがしかし。彼女に面と向かって言われた『初めまして。』に特に違和感を覚えなかったのもまた確かだった。
所詮は彼女の形を象っただけの人形だからか。
それともただ単に余りにも非日常的な一幕に一瞬正常な思考能力が追いつかなかったか。
ああ、それでも確かに自分はあの時彼女に、目の前の、牧野つくしの姿をしたただの人形を相手に抱きしめられたいと思った。
再び出会うことに恐怖と、僅かばかりの怨恨を持っていたはずなのに。
いざ目の当たりにするとみっともなく縋りそうになり、抱きしめてしまいそうになり、うっかり愛の言葉を囁きそうになるものだとは。
彼女が自分に残してった後遺症はいかに自分に対して大きいものか思い知らされたような気がする。

___どうか、してんな。

自分にやや呆れたように首を振ると、再び視線を夜明けの街へと戻す。
ここのところ毎日午前様で、NYから帰ってきて間もないというのに未だに時差ぼけも抜けきれないのかもしれなかった。
窓にうっすら映された自分の疲労に塗れた顔を軽く睨め付けた瞬間__小さな違和感が少しばかり脳裏に過ぎった。
小さな小さな違和感。
今、この瞬間でさえなければ気にも留めないような、だがどうしても見逃せない違和感が唐突に司に降りかかる。
自分は一体何を、、、?
あまりにも疲労が濃く残りすぎていてとうとう精神のどこかがやられてしまったのだろうか。
訳の分からない感情に突如苛まれ、それは決して自分を解放してはくれなかった。
何か得体の知れない、衝動のようにも思えた。

「__おい、ちょっと停めてくれ。」

運転手に命じて、車から降りる。
何を求めているのかも、何を探しているのかも分からないのに、それでも探求せずにはいられない。
不自然な違和感の正体を。
半ば絶対に何かを見逃せないと、いつも異常に神経過敏になったささくれたった視界が矢庭に急にクリアになった。

刹那。

________まき__?___いや、、、、城宮__雫?

彼女がいた。
確かに彼女がいた。
彼女だ、彼女だ、彼女がいる。確実にそこに存在している。自分がそうしようと思えばどうすることもできる距離に。確かに、いるのだ。
見間違えるはずのない、見間違うことなんてできるはずもない、永林学園の制服に身を包んだ、愛した女に酷似した彼女が。
馬鹿みたいに彼女の存在だけを確かめるように脳内に『彼女』が再生され続ける。
隣にいる男と口論にでもなっているのか。
腕を掴まれ、やや揉み合いになっているようにも見える。

こんな所に、こんな時間に、その上、決してガラがいいとは言えない人間と、何故彼女が供にいる?
深窓のお嬢様である彼女が、何故。

疑問符が浮かんでは消え、もやのかかった思考が何とかその役目を果たそうとするも、それより先に足が彼女へと向かっていった。
小さな違和感の正体を払拭した不思議な高揚感と供に。
一片の迷いと躊躇をかなぐり捨て、彼女の元へ。

にほんブログ村 二次小説

関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ 3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png 中編
総もくじ  3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ  3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 更新のお知らせ
  • 【更新滞っててすみません!】へ
  • 【更新できたっ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【更新滞っててすみません!】へ
  • 【更新できたっ】へ