中編

やさしくするよりキスをして 1

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午後からの講義が教授の都合により休講となってしまったつくしは大学のカフェテリアで一人、微睡みつつも締め切り間近となっている小論文に精を出していた。
今日に限ってバイトもいれていなかったので、正直時間を持て余していたところでもある。
英徳大学での生活ももうすぐ2年目になるが、想像していたよりもずっと時間は自分の思うとおりにならず__パンク寸前まで詰めた講義と相変わらずのバイト三昧の結果でもあったが__午後から急に暇になるなんぞめったにないことだった。
一日休みならともかく、急に半休になったところで上手い時間の使い方も見つからない。
指定された文字数をややオーバーしてしまい、結論の文章を少し削ろうかと溜息を吐いた刹那、
trrrr…trrrr…
不意に携帯電話の着信音が鳴り響く。
ふと鞄の中を見ると微かに震えている。
着信音の上にバイブを設定していたのだ。
鞄の奥底に無造作に入れていた携帯を取り出すと、ディスプレイには大河原滋。
いつもなら大抵の事はメールで済ますのに何だろうと眉を潜め、通話ボタンを押せば、

「もしもしつくしっ!?よかったいた!あ、あのね、大変なの。お、お願いだから落ち着いて聞いて欲しいんだけど__」

第一声はパニクったようなけたたましい音が響いた。

「もしもし滋さん?そんなに慌ててどうしたの?」

「あのね__司、、、司、が、飛行機事故で、、、__」

「、、、、、え?」

「い、いまLAなんだけど__あ、私がね__そ、それで司の乗ってる便がな、なんか不備があったとかで___」

「、、、、、な、なに__なんで__どうして、、、うそ___」

「あっ、で、でもね飛行機事故って言っても命に別状があるわけじゃなくて___
その、ただのって言ったらあれだけど、ただの胴体着陸で__だから司は___」

「じゃ、、、じゃあ、、、どう、道明寺は、、大丈夫、、、なんでしょ?__ねえ滋さん、、、そうなんでしょ!?」

声が震える。
上手く音が繋がらない。紡げない。
頭の中は真っ白で、滋の言っていることは理解はできるものの、まったく実感、、、というかイメージが沸かなかった。
飛行機事故?飛行機事故?
そんな大それた事故が何で司に___
よりにもよって自分の恋人に降りかかるというの?

「滋さん、そう、なんでしょう?」

情けないことに携帯を持つ手までもが震えてきた。
自分はちゃんと滋に受け答えが出来ているのか。
そんなことまで不安になるくらいに頭の中は空っぽになっていて。

「、、、ううん、それが前の座席の方に座っていたからどうも事故の衝撃が大きいみたいで___それで、今都内のね、病院に緊急搬送されたって___
私もよくはわからないの!
今日はLAで道明寺と合同会議があって、時間になっても司から連絡が入らないと思ったら、秘書の人がそう言ってて、、、
あのね、今病院の住所教えるから___」

『前の座席に座っていた』『事故の衝撃が大きいらしい』

この二つのフレーズが、凄まじいまでの早さでつくしの脳裏を駆け巡った。
滋の話を最後まで聞けたかも、また、会話をどう終わらせたかも正確に覚えている自信がない。
気がつけば震えを抑えきれない手から携帯電話が崩れ落ち、地に落ちたときのカツンという衝撃音でハッと我に返った。
震える足を叱咤し、カフェテリアを飛び出すと、すぐさまタクシーに飛び乗り目的の病院へと向かった。

どうして、どうして、どうして____

どうして道明寺が_____

頭がほんの少し冷静になると、自分の意思とは裏腹にじわりと涙が滲み、その頬を濡らしていく。
先ほどから最悪の結末が頭の中で勝手に展開されているのも今のつくしにとってはほとほと迷惑だった。

___いやだ___あのまま__あんな会話が最後なんて__そんなの絶対に嫌____

つくしの頬を無遠慮に濡らしていく涙の訳は動揺とショックのせいだけではない。
というのは、昨夜司と大喧嘩したばかりだったからだ。
自分たちの喧嘩なんて日常茶飯事だったし___自分が大学に入ってからは同じ学部だったこともあり、取っている講義が殆ど被っていたこともあって、人目を憚らず司が自分に対して大っぴらにベタついてくることも慣れっこになっていたと言えばそうなのだが、いつも勃発する喧嘩の原因の多くはその人前での過剰すぎるスキンシップで___昨夜の喧嘩もいつも通りそれが端を発していて。
いつも通り、本当にいつも通りの、じゃれ合いの延長戦のような喧嘩だったのだ。
いつもならば、大抵は司が折れて(司が悪いことが大半だから)つくしに謝り、事なきを得るというのはもはや習慣と化していたのだから、特に今更気にも病んでいなかったのだが、最後にかけた言葉がもしも___やれ人前でベタベタするな鬱陶しいだの、面倒くさいだの___そんなことばかりだったらどうしよう?
最後に司が見た自分の顔が彼に対してカンカンに怒っている顔なんて!
いつも通りのやり取りで。
いつも通りのじゃれ合いで。
だがしかし、このまま彼が自分に会うことなく死んでしまったとしたら、一生自分で自分を許せないだろう。
それに、気になっていることはもう一つ。
司が大学に入ってから家業を徐々に継ぎ始めた関係もあり、しばしば渡米渡欧することは珍しいことではなかったのだが、普段ならいついつどこそこへ行くと簡素なメールを必ず送っていた。
喧嘩している最中でもくれなかったことの方が希で。
司は自分に対してそれだけ怒っていたのか?
それとも短い期間だったから知らせなかっただけ?
それとも__いい加減に自分という存在に愛想が尽きたのか。
自分にとっては、喧嘩することすらコミュニケーションの一つというか、かなり軽く考えていたのだけれど、彼は本当に腹を立てていたのだろうか。
可愛くないことばかり言って、すぐに拒絶するような態度を繰り返す自分に嫌気が差したのだろうか。
そんなことはない。
そんなこと、あるはずない。
今までだって、ずっとそうだったんだから。
今更___今更そんなことで、彼が自分を拒否するはずがない!
頭の中でいくら打ち消そうとしても、慰めても、嫌な考えは自分をあっという間に飲み込んで支配していく。

___今考えるのはよそう。

自分の考えを打ち消すように首を振りながら、ぼんやりそう思った。

___今は考えまい。
嫌なことは何もかも、後で考えればいい。
今は何も考えまい。そうしないと、とても心の均衡を保てない、、、。
また後で考えればいい。どう謝罪すべきかも後で考えよう。

無意識のうちに握っていた胸元の土星のネックレスを更にギュッと強く握りしめると、雲一つない空を恨めしげに睨み付け、零れ落ちる涙を賢明に堪えた。


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あゆ様^^

ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
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