「ガラスの林檎たち」
第二章 わたしを離さないで

ガラスの林檎たち 44

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44話と45話 1話の量が短いので本日二回更新です。
読み飛ばしのないようにお願いします♡




















「___雫」

そう呼んだその人は、酷く優しい目をしていた。
慈しむような、懐かしむような目をして、、、わたしを見つめていた。
そんな目で見つめられたのは、もしかしたら初めてだったかも知れない。
今まで触れあってきたどんな大人も、必ず私を見つめる目は嫌悪に満ちているか、哀れみを感じているか、行為前の下品な視線か、、、そのどれかで。
唯一、僅かに信頼を寄せていた亜門にすら、そんな目で見つめられたことはない。
心の奥底に微かに感じる安堵感。
自分が今までこんな感情を持っていたなんて、今までは想像もしなかった。
ある種の官能すら刺激される。

「、、、雫って、だれ?」

当然の疑問、だと思う。
少なくとも自分は雫という名前ではなかったから。

「君の名前だよ」

優しい瞳はそのままに、貴之が言う。

「、、、私の、名前?」

「そう。君は今日から雫。城宮雫だ」

「ちがうよ。、、、私、つくしっていうの。牧野、つくし」

大人相手にこんなにスラスラと言葉が出てきたのは亜門以来だった。
大人なんて大嫌い。
大人なんて、大人なんて、とひとくくりにして、全ての大人を嫌悪していた自分はどこへ言ってしまったのか。
亜門に感じたときよりも、ずっと強烈に貴之という人間を、自分にとって確実にプラスになる存在だと予感していたからだろうか。
それとも、文字通り、自分は彼に、一目惚れというヤツをしてしまっていたのだろうか。

「いいや。君は今日から城宮雫になるんだ。
俺の言ってる意味、君にはまだわからないだろうけど、少なくともこれだけは言える」

貴之の手が自分の両頬を包む。
触れられて初めて、自分はこんなにも震えていることに気付いた。
彼の瞳に映る自分の瞳が心とは裏腹に怯えているのにも気付いた。
先ほどの恵の件を引きずっているのか、それとも大人全般に対する嫌悪感をこじらせていたのか。
警戒心を露わにした身体はガチガチに強ばり、頼りなげに震えていたのだ。

「もう、大丈夫」

そう言って、自分を優しく抱きしめてくれた。

「今日からは、ずっと一緒だから」

温かかった。
今まで触れあった誰よりも。
亜門よりも。
これまで身体を重ね合わせてきた誰よりもその温もりは温かかった。

「ずっと、、、一緒、、、?」

バカみたいに彼の言葉を繰り返して、不安げに彼の身体により沿った。

「ああ、、、ずっと、一緒。
今日からは、君はもう、何も心配しなくていい」

その言葉は瞬く間に自分を支配した。
自分の身体の隅々まで、かつで経験したことのない、柔らかな感情に包まれる。
そしてこの時、先ほど感じた感情は確信に変わった。
これを何と名付ければいいだろう?
一目惚れ、とは少し違う。
彼の顔の造形やそれ以外の外見的要素に惚れ込んでいたわけではなかった。
でも抱きしめられたときに、自分の中の感情は急激に膨れあがった。
初めて、誰かの事を愛しいと思った。
初めて出会った人に、こんな感情を抱くなんて今考えるとどうかしている。
でも、その時に自分は知ってしまったのだ。
これが、人を好きになることだと。
何とも思っていない男と何回セックスするより、一人の愛しい人に抱きしめられるときに感じる快感。
抱きしめられたときに、感じた確かなこの感情を何と名付けたらいいのだろう。

___今日からは、ずっと一緒だから。

その言葉の威力は、自分にとって凄まじかった。
自分に初めてこの感情を教えてくれた人を絶対的な存在にした瞬間___。
ポンポンと自分の頭を撫でて、解放しようとしたその手を、思わずギュッと掴んでしまった。

「、、、離さないで」

お願いだから、離れないで。
傍にいて。
本当はすごくすごく寂しかったの。
孤独で堪らなかった。
セックスをお金に換えることでしか自分の存在価値を明らかに出来なかった。
金銭と引き替えに売った身体を見る度、虚しさが残った。
自分には何もない。
自分に残された物など何も無い。
この先どうやって生きていくかも、何もかもよくわからなくなっていって。
本当は不安だった。
辛かった。
誰かに依存しないで生きている自分を、これからもずっとそうやって生きていけるかわからずに、信用できなかった。
誰かに、抱きしめて欲しかった。
ただ単に抱きしめてくれるだけで良かった。
それだけでこんなにも救われる気持ちになるなんて思いも寄らなかった。
身体を売らない自分にも価値があるような気がしてきて、、、それにたまらなく安堵の情を覚えた。
本当は孤独になんてなりたくなかったのだ、自分は。
抱きしめて欲しかった。誰かに。

「私を、離さないで」

そう言うと、貴之は再び力を込めて抱き返してくれる。
彼の背中に腕を回しながら、自分はようやく見つけた、と思った。
自分の居場所を、ようやく見つけた。
城宮雫が誰でどんな人なのかまだわからなかったけど、これだけは思った。

___私は、雫に雫を返さない。

絶対に、返さない。
ようやく見つけた自分だけの場所を絶対返さない。




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さとぴょん様(*^_^*)

コメント返信遅れてしまってごめんなさい(>_<)
予約投稿はしているのですがどうもPCに向かう気力がいまひとつで笑
毎回感想を長めの文章で起こしてくれるさとぴょん様には頭が下がります。
コメント下さるとき心の中で「あ、ぴょんさんだ!」って思ってからコメント読ませて頂いています笑

あ~声ですか、考えたことなかったですけど、そうですね、司君よりのバリトンボイス?色気のある感じかな。
全体的なイメージは福山雅治なんですけど、40ちょっとの人でイケてる人が彼しか思いつかなかったからだったりも笑
だれかいますかね~40代の俳優さんでカッコイイ人。
おすすめの人がいたら教えて下さい(>_<)笑

つくしは貴之に脅されて捕らわれて~というところ、ふふふ。にんまり。
実は時系列が違うんです。
って言ったら驚いてくれますか?
ネタバレになっちゃうんで、深いとこはツッコメませんが、あの貴之×つくしは、つくしがかなり司を好きになりかけてる時期のもの。
記憶を取り戻した後かどうかはまだ決めてませんが。
そこに触れて下さって嬉しい。
連載開始自体一年も前ですからね~ちゃんと読んで下さるファンの方がいるのは心底嬉しいモノです。ふふ。

貴之はですね~いっさいつくしのことなんとも思ってないんですね。
とばっさり。
あくまでも、
貴之→恵→つくし(雫)という人間関係はこのまま崩れないので。
いくらつくしが貴之を想っても報われず。
不毛な恋ですね。はあ、、、笑

つくしも恋愛初心者ですからね。
身体の経験は豊富ですが。
幼い頃によくある憧れと恋愛を混同してるパターンですかね。
ある種すり込みのような気も、、、
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