「ガラスの林檎たち」
第三章 愛もお金で買えますか?

ガラスの林檎たち 56

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「ここが正念場よね、司君」

僅かに眉間に皺を寄せ、難しい顔をしたつくしが路線図と地図を照らし合わせながら、司へボヤいた。

「地下鉄、、JR、、ん~~、乗っておけばよかったなあ、一度くらい」

庶民デートなんだから、当然移動手段も庶民的でなきゃね!と語尾にハートマークを付けながら美香がつくしへと指示したことが、事の発端だった。
デートスポットが一般的なところなのだから移動手段も庶民的なものでなければおかしいでしょ?気分もイマイチ盛り上がらないじゃない、となんだかよくわかるようなそうでもないような持論を美香に展開され、そうかもしれないとその気になってしまったのだ。
へ~まあいいかもね~司君の困り顔が目に浮かぶし、などと呑気に美香へと返した自分が心底忌々しい、と苦虫を潰したような顔になるつくしである。

「司君さ~聞くのも野暮かなって思うけど、電車とか使ったことあったりする?」

「あるよ」

「だよね~私も乗ったことは、、、って、え?あ、あるの!?」

「だからあるって。17年前に一度だけ。幼稚舎の遠足で」

「え、遠足って、、」

それって引率の先生居たから乗れたんじゃ、、?と言いたいのをグッと堪え、とりあえず乗り方を調べようとポケットのスマホに手を伸ばした瞬間。
ふと頭上の看板を見上げると、『きっぷうりば』と書かれているではないか。
きっぷ。切符。
うん、聞いたことはある。
ともかくそこに行けばなんらかのヒントが貰えるのでは?

「、、ねえ司君。多分だけどあそこにある機械できっぷを買えば乗り物に乗れるんだと思う。美香が言ってた気がする」

「機械?ああ、切符な。俺も聞いたことはあるな」

「ちょっと行ってみよ?すぐそこじゃん」

「おう」

にしても、、司君ってばホント、こと牧野つくしに関することには徹底的に甘くて優しくて聞き分けのいい男だこと。
ほんの5分の距離にすらお付きの運転手に送迎させるほどの超お坊ちゃんなくせに、私がそうしたいと言えばどこもかしこも庶民だらけの、その上訳の分からない乗り物に乗ることすら厭わない。
激務激務でたまの休日くらい、ホントだったらゆっくり過ごしてたいはずなのにね。
お坊ちゃんめ。
ついでに牧野つくしめ。
愛されてんね、あんた。
ホント時々腹が立つくらいに、、と考え、ハテと首を傾げる。
どうして私が牧野つくしに腹を立てるのよ?
あんなに貧相で下品で、、ド庶民どころかそれ以下の女に、腹を立ててる?
どうして?嫉妬?
誰が誰に嫉妬?
私が過去の私に、嫉妬?
司君に愛されていた、ただそれだけの理由で?
そんなこと、あるわけない。
私が牧野つくしだった頃の自分にヤキモチを妬くなんて、おかしいわ。
今の私の方がよっぽど、、。
そうよ。
よっぽどお嬢様でお金もあって、お金に余裕があるから容姿を美しく着飾る方法だって知っている。
専用の家庭教師がいるから、勉強だって他人に遅れを取ることはない。
あの頃の自分になかったものを、今の自分は全て手にしている。
それなのに過去の自分が妬ましいだなんて、どうかしてるわ。
たとえ天下の道明寺司に気にいられていたからって、そんなの、、そんなの、どうだっていいことのはずじゃない。
そう。
私は、、私は、、お父様の関心が引ければそれでいい。
うん、そうよね。

「__く。おい、雫っ!」

ボーッと考えていた自分に唐突に響く彼氏様の声にドキリとして、つくしが振り返る。

「わ、ごめん、ちょっと気抜けてて、、なに?司君」

「なにじゃねえよ、ほらここだろ?切符売り場」

「あ、ああ。うん、うん、そうね」

「お前どうしたんだよ。さっきからすげえ上の空」

「え?うん、いや、そんなことないよ?え、と、ああそうそう、なんかね、この前司君が訳してくれた論文あるじゃない?それが思いの外先生にべた褒めされちゃって、今度ESSの大会に誘われちゃって。
まあ断るんだけど。
みたいなことを思い出してたの、ハハ」

「、、、あ~お前が徹夜して書いてた、アレか」

「そ、そうそう!」

「へえ、褒められたのか。やるじゃん。よかったな」

瞬間。
彼があまりにも無邪気で。
子どもっぽく笑うから。

「おい、雫?」

「~~~~//」

不覚にもドキッとしてしまった。
いやこれは、そう、不可抗力!不可抗力なの!
なんとか自分に言い聞かせて深呼吸。
このままではミイラ取りがミイラになる。
今のは、、うん、そりゃこれだけのイケメンがニコッとしたら誰だってときめいちゃうこともあるかもしれない。
あくまで不可抗力だ。
これが同じF4のなんとかさんとなんとかさんでも、私は同じように少し照れてたもの。
きっとそうに違いない。
というより、今は切符が買えるかどうかの方が問題なのだからそっちに集中すれば無問題。

「司君っ!」

「ん?」

「切符買っちゃおう、早く!」

「お前買い方知ってんの?」

「知るわけないでしょ、司くんが買ってよ!」

「いや乗りたいつったのお前__」

「いいから買って!」

フンとそっぽを向いたつくしに、なぜいきなり気を悪くしたのかと一瞬考えた司だったが、考えるだけ無駄な話だ。
なにせこのお嬢様のわがままさと気分屋のこの態度ときたら、英徳のどのお嬢を持ってしても太刀打ち出来ないのだから。






とにもかくにもなんとか切符を買い、一応は目的の電車に乗れた午後十二時。
つくしの機嫌は相変わらず大してよくもなかったが、それより悪い時だって多々あるのだから文句は言っていられない。

「17年前にはあんな機械なかったけどな」

「あんな機械?あ~自動改札機ってヤツのこと?美香に教わったわ、、ねえそれにしてもさ司君、今日お祭りか何か?」

「、、なんで」

「随分たくさんの人が乗ってるみたいだから」

「ラッシュなんとかってヤツじゃね?」

「あ、それ聞いたことある。なんだっけラッシュ、、ラッシュ、、」

少し考え込むつくしだが、不意に先ほどの悪感情が蘇り、イライラと同時にもういいや、と座席に座る。

「まあラッシュなんとかでもなんでもいいけどさ、電車ってチンタラしすぎじゃないの?もっと早くはしれないわけ?」

「お前が乗りたいっつったんだろ?そう文句ばっか言うな雫。後でなんか買ってやるから」

「、、、絶対ね」

文句タラタラのつくしだが、プクッと頬を膨らませる姿もなんと可愛らしいのだろうとそこでそう思う自分は心底つくしバカだとも思う。
いい加減慣れっこになってきた彼女の言動は腹立たしいし、呆れてしまうものが多いが、惚れた弱み。
気まぐれでわがままでお嬢様で。
大事なことは今この瞬間が楽しいかどうか。
それだけが中心の彼女と過去に愛したつくしは重なるはずがないのに。
どうしてこんなに愛しく思ってしまうのか。
過去より磨かれた容姿やスタイル。
そんなのが起因しているわけではないことは自分が一番よく知っている。
なのになぜ__とも思うが、彼女を前にすると、そんなことも考えられなくなるほど愛しく思えるのだから、仕方がない。
そう。
腹立たしいし呆れてるけど、好きならしょうがない。
トチ狂っていると自分でも思うけど、そんな自分が心地いい。
おかしな話だ。
17歳でつくしに恋をしてからというもの、彼女に関しては少し狂っているのがデフォなのだから、今更という気もしたけれど。


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