「ガラスの林檎たち」
ガラスの林檎たち~番外編~

精神安定剤が欲しい

 ←ガラスの林檎たち 63 →ジッパー

100%自己満。
つくしも司も出てこなくてすみません。。
いつか書いてみたかった在りし日の城宮家。
両者とも大分病んでいますね。













「ママ~あのね~雫ね~おままごとしたいの、ママと」

ワンワンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、録画してあった「いないいないばあ」を見終えた雫が、ふと母である恵にそうねだった。

「え?いいわよ、、ママは何の役なのかしら、雫ちゃん?」

大きなキラキラした瞳にぽてっとした頬。
親の欲目だけではない、誰が見ても間違いなく可愛いと評価されるだろう娘の願いならば断れるはずもなかった。

「ママはね、ワンワンの役なの!ハイ」

元気よく雫に、今し方彼女が弄んでいたワンワンのぬいぐるみを手渡される。
が、まさか人間ではなく犬の役だというところに動揺を隠せない。

「そんでね~雫はお母さんの役なの!」

「ま、ママは犬の役なのね雫ちゃん、、わかったわ」

渡されたワンワンの両手を軽く握って、雫へと向ける。
一方の雫はというと、何やらおままごとの準備をしているらしい。
たまにお手伝いさんと一緒におままごとはしているようだが、それも母親である自分の体調が安定せずに、病院へと定期的に通わなければならないからなわけで、、この子が本当に相手にしてほしいのは母親である自分だけだろうから。
いつもは構ってあげられない分、今夜はたくさん遊んであげなければと決意を固める。

__よし。

「し、雫ちゃん、ワンワンだよ~一緒に遊びましょ?」

ワンワンをトテトテと雫のところまで歩かせて、いつも見ているワンワンはこんな感じだったかな?と雫に話しかけてみる。
なにぶん、おままごとの相手をするのは初めてだったし、幼少期の自分がそんな遊びをしたのはとうの昔のこと。
覚えているはずもない。
手探りで試しにとやってみたが、雫の方はキャッキャ喜んでいるので、一応間違えてはいないはず?

「ワンワン!雫ね、お料理したの!これあげるね、あ~んして」

いつか雫に買ってとせがまれたおままごとセットのオムライスが載ったお皿を差し出して、ワンワンにあ~んと笑顔を向ける雫は、可愛らしかった。
口を開けすぎて涎を垂らしてるのでさえ、なんて愛おしい。
本当に、、何よりも。
誰よりも。
愛おしくてたまらない。
自分が、、星のない世界にたった一つだけ見つけた、宝物。
自分だけの宝物。
絶望の中に残された唯一の光とも言える彼女の笑顔は時々恵には眩しすぎたが、それでも概ね生きる活力になっていたのは間違いない。

「ワンワン-?美味しいですか-?」

「うん、美味しいよ~雫ちゃん。雫ちゃんは料理の天才だね~」

いいながらワンワンを雫の顔の辺りまで近づければ、興奮した雫が再びワンワンをぎゅっと抱きしめ嬉しそうに笑った。
たまにしか相手にしてあげられないのが悲しいが、雫のためにも病院に通う回数を減らさなきゃ、とも思い直す。
けどそれは、、自分にとってはとても難しいことだと思う。
だって、わかっているから。
自分は痛いくらいにわかっている。
自分の精神が安定しない理由について。
その原因について。
原因が分かっていれば本来精神的な病気を治すのは簡単なのだ。
その原因を取り除いてしまえばいいのだから。
それでも_と思う。
自分のその原因はなんとも厄介だった。
なぜなら自分の生きていく、、生活の中心にある、けして取り除けないものだから。

「あっ!パパだっ!パパ~~っ!お帰りなさいっっ!」

雫の『パパ』という単語に背筋を強張らせる。
自分の娘が『パパ』と発言しているのだから、『パパ』と呼ばれたその人物は、自分の、、夫であるはずだ。
そう、自分の悪夢の最大の原因。
精神が安定しない元凶の、、誰よりも自分が畏怖する人物だ。

「_ただいま、雫。イイ子にしてたか?なに、ママと遊んでたの?」

その聞き覚えのある低い声が、自分の夫_そうは思いたくないけど現実に夫なので仕方がない_が帰宅してきたことを自分に知らしめた。
もう何年間も_正確に言えば四年間。
未だ自分を縛り付けて解放してくれはしない、悪夢の元凶のお帰りだ。

「あ_お帰りなさい、貴之、さん。その、、出張、お疲れ様でした」

一ヶ月間の貴之のヨーロッパへの出張が、貴之が一ヶ月間自分の元にいないという事実が、どれだけ自分を幸福にしたかなんて、目の前のこの男にはわからないだろう。
いや、わかったとしてどうでもいいはずだ。
悪魔のようなこの男に、今更わかってもらうことなど何も無い。

「、、ああ、ただいま、恵。あ~その、どうだ、体調、よくなった?医者からはここ最近は安定してるって聞いたけど」

_そうね、あなたがいなかったものね。
そう言ってあげたいけど、そんなつまらない文句のために激昂されて、もっとつまらない思いをするのは自分であることをわかりきっているから、、貴之には何も言わない。
適当に頷いて適当に返事をしておけば。
彼の不興さえ買わなければ。
そうすれば、彼に酷い目に遭わされずに済むのは、四年も一緒にいれば習慣として覚えることだ。

「ええ、おかげさまで」

目を合わせたのは一瞬だけで、返事だけ簡潔に言って、視線を雫に戻す。
ここ四年間で、なんとか雫がいれば会話?のようなものは一応成立するが、目だけは、、合わせるのが気持ち悪くて、吐き気が込み上げて。
とてもじゃないけど一言二言交わすだけで精一杯だった。

「ぱぱっ!あのね、雫ね、ママとおままごとしてたのっ!それでねーそれでねー、ママはワンワンの役なのっ!それでね、パパは雫のお兄ちゃんの役なの-」

「し、雫ちゃん。ぱ、パパは疲れてるのよ?お仕事たくさんしてきたから。だ_だから、今日はママと遊びましょ?ね?」

雫と自分との数少ない癒しの時間に自分の悪夢の元凶と共有して過ごしたくはない。
雫にとってはパパかもしれなくても、自分にとってはただの、、自分をレイプして、卑怯な手段でこの家に縛り続ける、、悪夢でしかないのだから。

「えぇ~~っっっ!やだぁっ!雫、パパとも遊ぶもんっ!」

ワンワンをブンブン振り回して、激しく雫が抗議する。
あまつさえ、雫は涙まで流しそうになっていた。

「いやだいやだああっ!雫ぜったいぱぱとあそぶもんっっ!!」

__そうよね、雫にとっては久しぶりのパパなのに、自分のエゴで取り上げてしまうなんて。

ギュッと目を瞑って、深呼吸を一つ。
、、大丈夫。
今だけよ、恵。
今だけ、この男のことは忘れるの。
雫ちゃんのパパだって、そのことだけ考えていれば、なんてことない。

「あ、、たか_」

「よし、雫!おままごとは明日な?ほら、時計見てみろ~もう子どもは寝る時間。明日はパパ、一日ウチに居るから、な?」

「ええええっ、やだもん、いまあそぶっっっ!」

「こーら、そんなわがまま言ってると、前に欲しがってたお姫様だっけか?あのドレス買ってあげないぞ?」

「え~っ、酷いっ!やくそくした!」

「雫だって夜の10時には寝るってパパとの約束破るなら、仕方ないだろ?今からちゃんと寝るなら、明日買いに行ってもいいけど、どうする?」

「う、、」

「うん?」

「~~~っ!パパのバカっ!雫もう寝るモンねっっっ!べえええだっ!」

「ははっ。_よしよし、イイ子だな、雫は。ほら、パパが部屋まで連れてってあげるから、おいで?」

ぶすっとした顔のまま、ぷいっとそっぽを向ける。
どうやらおままごとの続きを出来ないことがそうとう面白くないらしい。

「いいっ!ママにつれてってもらうもんっ!」

「きゃっ」

てててっと彼女なりにダッシュしたらしく、ぴょんっと恵に抱きついた。
まだ2歳半とはいえ、普段子守りがあまり出来ていない自分にとっては結構な重量だ。
少しフラついてしまう。
_が、貴之が支えてくれたのでバランスを崩して転ぶということはなかった。
、、けど。
思わず反射的に彼の手を振り払ってしまった。

「ご、ごめんっ。い、今のは君が危ないと思ったから、、悪い、他意はないよ。ホントに」

申し訳なさそうな顔でそんなことを言われれば納得する振りをするしかないじゃない。
気持ち悪くて鳥肌が立ったのは確かだけど。

「別に、、大丈夫ですよ。ありがとうございます、こちらこそ。
_雫ちゃん?パパにおやすみなさーいって言って?」

ね?と雫を抱っこしたまま恵が貴之へと顔を向ける。

「、、おやすみなさい」

「はーい、偉いですね~雫ちゃん?じゃあ、行きましょうか」

「あのね~ママ~雫にごほん読んでくれなきゃ、めっなの~」

「いいわよ~何読みましょうね~」

「あのねあのね、この前のびじょとやじゅうのね、続きが聞きたいのっ」

「ふふ、わかったわ。今日は最後まで読みましょうね?」

よし、と雫を抱っこしたまま、雫の部屋へと足を運ぼうとするが、、背後の声に遮られる。

「あ~、、恵。その、、雫のこと寝かせた後でいいから、、俺の部屋に来てくれるか?」

久しぶりに聞いたその言葉に、ゾクリと背筋が粟立った。

「、、え?」

「いや、、だからその、、俺、本当に何もしない。お前に指一本触れない。あ~そうだな、うん。俺が今更何言っても信用できないって、そりゃそうかもしれないけど、、でも俺は、、お前とその、、ちゃんと夫婦になりたいって言うか。へ、変な意味じゃねえぞ?ただ、、一緒に寝るだけでいい。それだけだ。ダメか?」

夫婦なのだから、彼が至極全うなことを言っているのはわかる。
夫婦、、それもまだ、2人とも20代の、世間一般から見たら理解しがたいかもしれない程若い夫婦なのだ。
一緒に寝て、それこそセックスだのなんだのをしない方が、不健全に見えるのかもしれない。

__でも、、、でも。

彼と一緒に寝る、だなんて。
そのフレーズだけで頭が、おかしくなりそうだ。
ただでさえ人より崩れやすい心が、均衡を保てないでいる。

「それは、、め、命令、ですか?」

「_え?」

「どうしても、、その、、貴方と一緒に、、寝なければ、いけませんか?めい、、命令なら、その通りに、します」

「いや_」

そっぽを向きながら答えた恵にはわかりえなかっただろう貴之の顔が昏く曇る。
あまりと言えばあまりの_愛しい彼女からの発言だった。

「命令じゃ、ない。命令じゃないよ。、、悪い、気にしないでくれ」

「そうですか。では」

素っ気ない恵の態度は自業自得だというのに、この諦めの悪さ。自分でも辟易する。
いつまでも執着して、彼女を解放してやることが出来ない自分にも、腹が立つ。
自分は本当に、、なんて愚かなのだろう。

「_やっぱり、命令する」

愚かならば、自分は一生彼女に対してピエロで居続ければいい。
その方が、自分は楽だ。

「俺の部屋に来て。雫の相手をし終わったらで構わないから」

背中からでも、彼女が深く絶望しきったのを、自分は知ってしまう。
そうすれば当然彼女と同じ程度の絶望を、自分も味わうのを知っているのに。
彼女が自分とベッドを共にするのは反吐を吐くほど嫌だなんて、随分前からとっくに分かっている。
分かっているけど、、それでもなお彼女を解放してやることは出来ない。
指一本触れない、その誓いだけは死んでも守るけれど。
どうしても彼女が傍にいないと、自分は安心して眠ることは出来ない。
彼女が自分との子どもを孕み絶望して自殺未遂を図った、あの夜から。
自分の居ないときに、いつまた死を選んでしまうかわからない彼女の傍に、どうしても居させて欲しい。

「わかり、ました。後で、部屋に向かいます」

彼女の声が震えていた。
絶望と恐怖に打ちひしがれたような声だ。
それでも、、それでも、お前を解放することは出来ない俺を、どうか許して欲しい。

俺の精神安定剤は、きっとこの世でお前だけなのだから。



関連記事
スポンサーサイト


総もくじ 3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ 3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 短編
もくじ  3kaku_s_L.png 中編
総もくじ  3kaku_s_L.png ガラスの林檎たち
総もくじ  3kaku_s_L.png お題シリーズ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 更新のお知らせ
  • 【ガラスの林檎たち 63】へ
  • 【ジッパー】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

とも様^^

コメントの返信大分遅れてしまっています、申し訳ないです。

「精神安定剤が欲しい」読んで下さったということで♪

オリキャラ同士の完全オリジナル話なので反応してくれることがもう感無量でございます。

そうですねぇ。

この頃はやはり恵も殆どは正気を保ってますね。

もちろん貴之と形式的には夫婦な分、ベッドを共にした日は吐いてしまったり、一日起き上がることが出来なくなったり、と精神的に厳しい部分はありましたが。

彼女が完全に精神を病んでしまったのは雫が亡くなったその日からですね。

皮肉にも貴之と恵の関係が良好になるきっかけにはなりましたが、2人ともそんなのはどうでもよいくらいに雫を失った傷が大きかったので、やはり恵はボロボロになっていきましたね。

恵の精神安定剤が雫ならば貴之が恵を精神安定剤に。

いつかこの精神安定剤がテーマのお話、つかつくでも書きたいです。はい。笑
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ガラスの林檎たち 63】へ
  • 【ジッパー】へ