中編
アダムとイブのジレンマ
皆様お久しぶりです。コメントやメールの返信滞っていますが、ごめんなさいの中編です。
私にしては珍しくもう完結しているので全部で10話くらい?かな、毎日投稿していきます。
そしてこの話、類つくです。今までつかつくオンリーでやってきましたが、ここに来ての類つく。笑
正直復帰の中編はつかつくで行こうと思ってたのに、書けば書くほどこれは...類つくだねえ、と沼に落ちていきました。あは。
久しぶりに気になるあのサイトの気になるあの長編をばああっと読み返しました。やっぱり素敵。原点にして頂点だなあと思いました。モチベアップ。
この話最後はハピエンだけどシリアス重ためといういつものパターンなので苦手な人は気をつけて下さい。本当にいつもの私だって感じの作品です。
分岐は司とのニューヨークでの別れあたりかな?
「牧野、身体痛くない?平気?」
「…うん、大丈夫。ちょっとだけ痛いけど」
もぞもぞと彼女は身体の向きを入れ替え、俺の腰に腕を絡める。
男の力で強く押さえ込んだ手首は内出血で少し赤黒くなっていて、首筋に執拗に付けたキスマークが痛々しい。
それなのに、彼女はいつも通り薄く笑って、「大丈夫」なんて。
俺を心配させまいと甘えるようにひっついてきて、あまつさえ俺の手を優しく握ってくるなんて。
何で俺がお前に慰められる構図になっているんだろう、とか、余計なことを考えてしまう。
牧野は、優しい。
俺限定の優しさというわけじゃないけれど昔から本当に自分より他人を第一に優先する危うさが牧野にはあった。
俺が鬱陶しいと思うくらいに牧野は他人を気遣う。
こんな俺のことも、全く同じように。
優しくて、自分よりも相手を労って、こんな俺を許容してくれて、無条件に手を差し伸べてくれて。
「昨日はごめん。かなり無理させた」
たまらなくなって彼女を抱きしめれば、
「もう、なんなの類ってば。だーいじょうぶだって言ってるじゃない。全然、謝らなくたって」
いいんだよ、なんてお軽く寄越すわけで。
「ちょっと疲れちゃったんだよね?誰だってそんなことあるじゃない。今日はゆっくり休も」
彼女が耳元で言う声が心地良い。
俺の一番大好きな牧野の声だ。
少し高くて柔らかい甘い声。
類、と呼ばれる度に、その声に、俺はいつだって酷く安らいでいる。
「うんそれでも、」
言葉を切って、彼女の汗で張り付いた前髪をどかして、頬に軽くキスをする。
もう一度されるのか、と身を固くした彼女を安心させるように、瞼にもキス。
「無理はさせただろ。悪かった。ごめん」
ちゅ、ちゅ、と瞼に何度もキスをして、くすぐったそうに柔らかく笑った牧野を目の端で確認して、身体ごとキツく抱きしめた。
「あの、類?」
「ん」
「ちょっと痛いから、緩めて欲しいんだけど」
腕、と牧野は続ける。
眉を下げて、俺の機嫌を伺うように。
俺はそんな牧野を見ているのが寂しいし、どうしようもなく後ろめたいキモチになるのだ。
俺が牧野の中に植え付けた傷とトラウマはきっと思ったよりももっと大きい。
「…うん。ごめん牧野」
安心させるように、牧野のおでこを撫でてから抱きしめていた腕を離した。
しばらく沈黙。
電気を消して寝ようか提案しかけた時、牧野がふと思い付いたように俺に話し掛ける。
「あ、そうだ類、明日何時に起きる?」
「明日?久しぶりにオフだし、昼まで寝てるけど」
「そっか、明日は私朝からバイトあって行かなきゃだから、一緒にご飯食べれないんだけど」
「別に気にしなくていいよ。いつも一緒に食べてるってわけじゃないでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。でも朝ご飯は作っておくね。何がいい?」
「あれ食べたい。牧野が前作ってくれたヤツ」
「前って?」
「あれだってば、あれ。えーと、あ、そうそうあれ、卵焼き。すごい甘かったやつ」
「だからあれは失敗作で…はあ、まあいいよ。作ってあげるよ、仕方ないなあ」
彼女は少し顔を赤くした後、機嫌良さそうに声を明るくする。
からかう気持ち半分、本当に砂糖が大量に入った独特の味がする卵焼きが食べたい気持ちが半分だった。
失敗作だから忘れて、と彼女は言うが無性にあの味が食べたいと思うあたり、あれは実はそれほど失敗作でもないのではないだろうか。
「るい、」
「ん、どした」
「類はさ、私のこと…ちょっとでも、好きだって思ってる?」
「…そうだね」
彼女はよく俺に、自分のことが好きなのかと聞く。
そのくせ彼女が俺のことをどう思ってるのかについてはまったく話さない。
だから俺も彼女に本心なんて話さない。
ただ、手放す気も無い。
どこかの余所の男と幸せになるくらいなら、俺の傍で、ずっと不幸でいればいい。
「牧野は、ずっと俺の傍にいればいいって思ってる」
「?えぇ、なにそれ。そりゃ、ずっといるんじゃない?」
「幸せにはしてやれないと思うけど」
「....別にいいよ。勝手に幸せになるから」
そう言って、今日も彼女は悲しく笑い、嬉しそうに泣く。
私にしては珍しくもう完結しているので全部で10話くらい?かな、毎日投稿していきます。
そしてこの話、類つくです。今までつかつくオンリーでやってきましたが、ここに来ての類つく。笑
正直復帰の中編はつかつくで行こうと思ってたのに、書けば書くほどこれは...類つくだねえ、と沼に落ちていきました。あは。
久しぶりに気になるあのサイトの気になるあの長編をばああっと読み返しました。やっぱり素敵。原点にして頂点だなあと思いました。モチベアップ。
この話最後はハピエンだけどシリアス重ためといういつものパターンなので苦手な人は気をつけて下さい。本当にいつもの私だって感じの作品です。
分岐は司とのニューヨークでの別れあたりかな?
「牧野、身体痛くない?平気?」
「…うん、大丈夫。ちょっとだけ痛いけど」
もぞもぞと彼女は身体の向きを入れ替え、俺の腰に腕を絡める。
男の力で強く押さえ込んだ手首は内出血で少し赤黒くなっていて、首筋に執拗に付けたキスマークが痛々しい。
それなのに、彼女はいつも通り薄く笑って、「大丈夫」なんて。
俺を心配させまいと甘えるようにひっついてきて、あまつさえ俺の手を優しく握ってくるなんて。
何で俺がお前に慰められる構図になっているんだろう、とか、余計なことを考えてしまう。
牧野は、優しい。
俺限定の優しさというわけじゃないけれど昔から本当に自分より他人を第一に優先する危うさが牧野にはあった。
俺が鬱陶しいと思うくらいに牧野は他人を気遣う。
こんな俺のことも、全く同じように。
優しくて、自分よりも相手を労って、こんな俺を許容してくれて、無条件に手を差し伸べてくれて。
「昨日はごめん。かなり無理させた」
たまらなくなって彼女を抱きしめれば、
「もう、なんなの類ってば。だーいじょうぶだって言ってるじゃない。全然、謝らなくたって」
いいんだよ、なんてお軽く寄越すわけで。
「ちょっと疲れちゃったんだよね?誰だってそんなことあるじゃない。今日はゆっくり休も」
彼女が耳元で言う声が心地良い。
俺の一番大好きな牧野の声だ。
少し高くて柔らかい甘い声。
類、と呼ばれる度に、その声に、俺はいつだって酷く安らいでいる。
「うんそれでも、」
言葉を切って、彼女の汗で張り付いた前髪をどかして、頬に軽くキスをする。
もう一度されるのか、と身を固くした彼女を安心させるように、瞼にもキス。
「無理はさせただろ。悪かった。ごめん」
ちゅ、ちゅ、と瞼に何度もキスをして、くすぐったそうに柔らかく笑った牧野を目の端で確認して、身体ごとキツく抱きしめた。
「あの、類?」
「ん」
「ちょっと痛いから、緩めて欲しいんだけど」
腕、と牧野は続ける。
眉を下げて、俺の機嫌を伺うように。
俺はそんな牧野を見ているのが寂しいし、どうしようもなく後ろめたいキモチになるのだ。
俺が牧野の中に植え付けた傷とトラウマはきっと思ったよりももっと大きい。
「…うん。ごめん牧野」
安心させるように、牧野のおでこを撫でてから抱きしめていた腕を離した。
しばらく沈黙。
電気を消して寝ようか提案しかけた時、牧野がふと思い付いたように俺に話し掛ける。
「あ、そうだ類、明日何時に起きる?」
「明日?久しぶりにオフだし、昼まで寝てるけど」
「そっか、明日は私朝からバイトあって行かなきゃだから、一緒にご飯食べれないんだけど」
「別に気にしなくていいよ。いつも一緒に食べてるってわけじゃないでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。でも朝ご飯は作っておくね。何がいい?」
「あれ食べたい。牧野が前作ってくれたヤツ」
「前って?」
「あれだってば、あれ。えーと、あ、そうそうあれ、卵焼き。すごい甘かったやつ」
「だからあれは失敗作で…はあ、まあいいよ。作ってあげるよ、仕方ないなあ」
彼女は少し顔を赤くした後、機嫌良さそうに声を明るくする。
からかう気持ち半分、本当に砂糖が大量に入った独特の味がする卵焼きが食べたい気持ちが半分だった。
失敗作だから忘れて、と彼女は言うが無性にあの味が食べたいと思うあたり、あれは実はそれほど失敗作でもないのではないだろうか。
「るい、」
「ん、どした」
「類はさ、私のこと…ちょっとでも、好きだって思ってる?」
「…そうだね」
彼女はよく俺に、自分のことが好きなのかと聞く。
そのくせ彼女が俺のことをどう思ってるのかについてはまったく話さない。
だから俺も彼女に本心なんて話さない。
ただ、手放す気も無い。
どこかの余所の男と幸せになるくらいなら、俺の傍で、ずっと不幸でいればいい。
「牧野は、ずっと俺の傍にいればいいって思ってる」
「?えぇ、なにそれ。そりゃ、ずっといるんじゃない?」
「幸せにはしてやれないと思うけど」
「....別にいいよ。勝手に幸せになるから」
そう言って、今日も彼女は悲しく笑い、嬉しそうに泣く。
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