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「愛さずにはいられない」
第二章 軽蔑していた愛情

愛さずにはいられない 30

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祥一郎の診察を受けてからさらに一週間が経ったがなかなか熱は引かなかった。
抗生物質も毎日決まった時間に飲んでいるし栄養と睡眠はきちんとしているというのに。
やはり今までの不摂生がたたったのだろうか。

巧はあれからも度々つくしの身を案じお見舞いと称してつくしの家に様子を見に来てくれた。
司から巧との接触を禁じられているのを忘れているわけではなかったが一日おきにフルーツやらアイスクリームやらをを届けに来てくれる巧を無下にすることも出来ず。

巧だって相当忙しい身のはずなのに何とか時間を作ってはつくしと他愛もない話をしたり、時にはつくしが眠るまで傍についていてくれたりする。

恋人でもない男性を夜遅くに家に上げたり、朝まで一緒に過ごすというのは節操のないことなのかもしれなかったがもうすでにつくしは巧を男としては見ていなかった。
巧のことを、もしも自分に兄がいたらこんな感じなのではないかと思ってみたり、巧は行動や性格はどちらかというと司に似ていたが持っている雰囲気はどことなく花沢類に似ているな、と感じたり。
以前からもそうではあったが巧はこれまで以上につくしの精神的な支えになっていたと思う。

不意にインターホンの音が鳴った。

まだ夜の9時を過ぎたばかりだったので巧にしては少し早い時間だったがつくしはベッドから起き上がりまだ若干ふらつく足で玄関に向かう。

「東城さん?今日はいつもより早か_____

たのね、と続けようとしたつくしの目が見開かれる。驚愕に。

「_____東城じゃなくて悪かったな。」

ドアを開けつくしの目に飛び込んできたのは巧ではなかった。

「・・・・・・つ、かさ・・・・・・?」

つくしより25㎝高い身長から見下ろされる冷たい瞳の持ち主は道明寺司、その人であった。
その手には紙がぐしゃぐしゃに握りしめられており、つくしを見下ろすその目は切るように鋭く、そして冷たかった。

「携帯。」

司が短くつくしに言う。

「え・・・・・?けーたい・・・?」

つくしは寝室に戻りベッドサイドに置いてある携帯を開いた。
着信履歴はほとんど「道明寺司」で埋まっている。
普段司はつくしの携帯に連絡を入れたりしないので、今はほとんど巧との記録しか残っておらず、それ以外に普段は別段プライベート用の携帯を使うことなど無かった。
それ故熱を出してからは携帯の充電まで気が回らず______巧との接触をなるべく少なくしようという試みもあったが_____ずっと電源を落としていたのだった。

何の遠慮もなくつくしの家に上がり込み、ソファーに腰を下ろしている男につくしは言い訳めいた口調で答える。

「あの・・・ごめんなさい。ずっと寝込んでいたものだから・・・携帯の電源落としてて・・・・。」

「これはなんだ?」

司は噛みつくような視線をつくしにぶつけ、今まで握りしめていた書類らしきものをつくしの前に放り投げた。
原型をとどめていないほどぐしゃぐしゃに丸められた紙を広げていくつくしの心に急ブレーキをかけたような衝撃が起きた。

「こ・・・れ・・・・。」

つくしを驚かせたのは興信所から送られてきたであろう書類____に添付されている写真だった。

巧の車に乗せられている写真。
玄関の前で巧に抱きついている写真。
最後は手土産を持ってやって来た巧を笑顔で迎え入れる写真。

どの写真も何も知らない人から見れば仲のよい恋人のように写っているものばかりだった。

「二日前に社の方に匿名で送られてきたものだ。
道明寺の秘書であるはずのお前が取引先の重役とかなり親しい関係になっているってな。
_____なあ、どういうことだよ、これは。説明しろよ。」

殺意にも似た衝動を抑えつけながら司が問い詰める。

迂闊、だったと思う。
この報告書は社外からでは無く、内部の人間が送りつけたものだろう。
つくしを快く思っていない人がかなりいるという事は知っていた。
特に秘書課は7割が女性。学歴、家柄、容姿のすべてにおいて優れている人たちばかり。

そんな中で学歴も家柄も良いとはいえないつくしが専務の秘書という肩書きをもらっているだけでも嫉妬の対象だったが、加えて司とつくしが男女の仲にあるということは社の人間で知らないものはいなかったのだから嫉妬の目が常につくしに集中するのは仕方がないことであった。

配属された当初はくだらない嫌がらせだって散々された。

ロッカーを開けたら制服がビリビリに破かれていたり、持ち物は定期的に壊されたり隠されたり。

____そして、おそらくこの写真も。

「説明しろっつってんだろ!」

黙りを決め込んだままでいるつくしに激昂した司が机を蹴り上げる。

____どういえばいいというのだろう。

どの写真にも嘘偽りは一欠片もない。
つくしは確かに巧の車に乗せられ食事に連れて行かれたし、不安でたまらなくなった夜は子供のように巧に抱かれたまま寝たことだってあるし、二日に一度お見舞いに来る巧を楽しみに待っていた。

俯いたまま言い訳の一言も発しようとしないつくしに司の中で何かが切れた。

ソファーから立ち上がりつくしのもとに向かうと髪を引っ張り上げ無理矢理自分の方を向かせる。

つくしの怯えたような目が司の、何を写し出すわけでもない無機質な目と合った。
目、というよりは単なる眼球か。
その目はつくしの事を写し出してはいなかった。
かつてつくしは、冷たく暗いだけの司の瞳を二度見たことがある。

一度目は誰もいない放課後の学校の非常階段。
二度目は司がつくしの記憶を失った直後、東の角部屋で。

その時にはじめてつくしは知ったのだ。
自分がどれだけ取り返しのつかないことをしてしまったのかを。
どれだけ司の存在をないがしろにし、どれだけ司を傷つけてしまったのかを。


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