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「愛さずにはいられない」
第三章 愛さえあれば

愛さずにはいられない 45

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「これで7件目かあ・・・・・。」

ここもダメだったか、とつくしは手に持っていた就職情報誌の7つ目の欄に大きくバツをつける。
何よ、23歳って、世間一般にはまだ十分若いじゃない、と心の中では毒づいてみたが。
英徳出身とはいえこの就職難の時期に高卒のつくしでは面接にすら中々こぎつかなかった。

____高望み、しすぎているのかな。今までのポスト基準にしちゃってるのかも。

高校を卒業してからすぐに道明寺という大会社の専務付第一秘書という肩書きをもらっているつくしとしては知らず知らずのうちに感覚が麻痺しているのかもしれなかった。
それでも選んでいるのは高校卒業以上の資格を持っていれば入れるところのみなのだから、大卒以上の所よりずっと数は限られていた。

正社員じゃなくてもいい。派遣だってなんだってよかった。
とにかく今はお金が必要だった。
子供の出産費用や、これからの生活費のために。
お金のことに関しては自分の両親はあまりにも頼りにならなかったし、頼める友人などもいなかった。

やるせない思いに、はあ、と溜息を吐くと自分を奮い立たせるかのようにブルっと首を振り歩き出した。
時計を見れば、正午はとっくに過ぎている。

___そう言えば、今日は朝から何も食べてなかったわ___

何もかもが変わってしまった生活に体がついていかず、身重の身でありながら体調管理を怠っていることに気付かされる。

___だめね、こんなんじゃ。

どこかで食べ物でも口に入れようと辺りを見渡すと、すぐ近くに洋食屋があったことを思い出す。
この街には似つかわしくなくアパートに挟まれるように立っていた寂れた外見が印象的だった。

あそこに行ってみよう、とつくしは就職情報誌を閉じ鞄にしまい込むとクルリと踵を返し歩き出した。
ちょうどその店はつくしの今いたところから反対方向、大通りから1本中に入った通りにある。



その店はいかにも、と言うような古く寂れた外観だった。
小さな建物に不思議と威圧感が漂う。
つくしは表に看板が出されていることを確認し、ドアを開けようと手を伸ばした____刹那。
ふと扉の所に貼られている張り紙が目に入った。『従業員募集』と簡潔な見出しがつけられている。
募集要因は高卒以上、時給もほどほど。経験不問と太字で書かれておりつくしの興味を引いた。

____ちょっと、話だけでも聞いてみようかな・・・

ガラっと扉を開けば『いらっしゃいませ!』とかけ声が響いた。
ぐるりと周りを見渡すと中は割と小綺麗でレトロな印象だった。
お昼時だというのにカウンターに数人のお客さんというのは寂しかったが。

「お一人様ですか?」

おそらく自分の母親ほどの年齢だろうか、従業員の女性に声を掛けられ、思い切って尋ねてみる。

「あの、表の張り紙、見たんですけど。求人の・・・・・・。」

「へ?」

一瞬女性の目が点になる。
あり得ないものを見るような目でマジマジとつくしを見る。
その目線に少々たじろきながらも負けじと見つめ返す。

「表の張り紙って____えーと?ここで働きたいってことかい?」

「は、はい。まだ募集していますか?あの、一応履歴書は持っていますけど____

「り、履歴書・・・?いや、そんなもん別に良いよ。
そりゃあ、こっちとしちゃあ有り難いんだけどねえ・・・。
ここ、見ての通りボロいし寂れた洋食屋だよ?
お上品な店じゃないし、あんたみたいなのがまともに働けるとは思わないけど・・・・。」

面接帰りのつくしのスーツ姿がやや鼻についたのか女性が皮肉混じりに言った。

「そ、そんなことないです。自分に出来ることなら精一杯やります。一生懸命働きますので、お願いします。」

「あんた、まさか学生さんじゃあないだろうね?家出娘とか、厄介なのはお断りだよ。」

「ちっ違います!ついこの前まで普通に社会人やってました。家出とかそんなんじゃあ____

「へえ、若くてかわいい子じゃん。雇ってやんなよ、トーコさん。」

「いいねえ、この店にも看板娘が出来るってもんだ。」

ここの常連なのだろうか、サラリーマン風の2人が「トーコ」と呼ばれた女性に言った
。女性は軽く溜息を吐き、「こっちへおいで。」とつくしをカウンターの中の奥の方まで導く。

「____で、あんたいくつなんだい?」

「今年で23、ですけど・・・。」

「一人暮らし?家この辺なの?」

「あ、はい。一週間前にこの街に引っ越してきたばかりなんですけど・・・・。」

「ふーん、一週間前ねえ。_____明日から来れる?」

「はっはい!もちろんです。」

「名前は?」

「牧野つくしと申します。」

「そう。つくしちゃん、ね。あたしは瀬崎塔子。
___この店はあたしと主人と、それから大学生の息子に手伝ってもらってる。あんたも明日からよろしくね。」

「はい、よろしくお願いします。___あと、一つ良いですか。」

「___なんだい?」

「あたし、その___妊娠、してるんです。」

「え__?」

「あの___だからその、あたしも初めての経験だし、色々慣れないこととかもあると思うので、雇いたくなければ今のうちに言って頂いて構いません。」

「えーと、ちょっと待って。あんたさっき一人暮らしって__?結婚はしてないのかい?」

「・・・・はい。」

「相手の人は?」

「それはその___事情があって、相手の人にはこのこと伝えて無くて・・・。」

「まあ___他人の事情に首突っ込む気はないけど___
せめて相手の人にはちゃんと言った方がいいんじゃないかい?この事。」

「それは___でも___

「・・・うーん。
___何かいっぱい言いたいことはあるんだけど、こればっかりは当人の問題だもんね?
で、今妊娠何ヶ月目?悪阻とかどんな感じ?」

「悪阻は、うーん。割と重い方だと思うんですけど・・・・。」

「じゃあ出前とかはさせられないねえ・・・。
ん!よし!!まあ、無理のない程度に頑張んなさい。あ、それとあんたもしか___

と言いかけた塔子の目が次の瞬間大きく見開かれた。驚愕に。

「あ、あんた!これ、どーしたんだい・・・・。」

つくしが髪をかき上げようと手を上げると袖が捲れ、白い肌が赤黒い斑点でびっしりと覆われているのが目に飛び込んだ。思わずガッとつくしの腕を掴んでしまう。

「あ、の・・・・・これは____その___

どこかばつが悪くなったつくしは塔子の目をまともに見ることが出来ず、しどろもどろになりながら言葉を詰まらせた。塔子はつくしの手からそっと自分の手を外し、つくしを見つめ直す。
それは先ほどの事務的なまでに淡々とした瞳ではなく、何かを悟ったような憐憫にも似たような色が混じっていた。

「___確かに、いろいろ事情があるみたいだねえ。
うん、大丈夫。これ以上はほんとに詮索しないから。とにかく、明日からよろしく、ね。」

「はっはい!よろしくお願いします!」

この時のつくしは思いもよらなかっただろう。

何もかもが好転した状況の中で、まもなく自分の身に降りかかる信じられないほどの悲しみがあることを。
この世の絶望など既に知り尽くしていると、あるいは思い上がっているのかもしれないつくしにとって、どん底には更に下があるのだということを。
分不相応の望みの裏には自分が計り知れないほど大きなリスクが伴うということを。




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