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「愛さずにはいられない」
第三章 愛さえあれば

愛さずにはいられない 58

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巧からの言伝は、極めて簡潔なものだった。

つくしの容態が今朝方急変した、このままじゃ危ないかもしれない、つくしはうわごとのようにお前の名を呼んでいる。
本来であればお前を呼ぶなんて事は大変不本意ではあるが、もうお前に縋るしかないんだ。
ほんの少しでもつくしに対する憐憫か良心が残っているのであれば来れないはずはないだろ、と大体そんな意味のようなことを半ば怒鳴りつけられるような調子で電話口で叫ばれた。
いつも冷静で物腰の柔らかい巧からは想像も出来ないほどに切迫した苛立ちを隠そうともしない悲痛な声。
それがより一層事態の深刻さを物語っていた。

『急変』『危ない』
この言葉の持つ意味は司を震撼させた。
一ヶ月前、つくしが病院に救急搬送されたと伝えられたとき以上の恐怖と絶望。
情けないことに受話器を持つ手は震え、何とか支えている足は膝から崩れ落ちていきそうだった。
焦点の合わなくなる瞳、上手く言葉が紡ぎ出されない口。
ちょうど余命宣告をされた直後の人間のように、みっともないくらいに怯え、震えていた。
当然だ。
司にとっては自分よりも何倍も価値がある___比較にもならないほど尊い命がこの瞬間に失われようとしていたのだから。
命の重さは皆一緒というのはきれい事だというのを自分は知っている。
自分の命を100個賭けようともつくしの命の重さには到底及ばない。
つくしの損失は、もはや単に一個人の損失ではないのだ。

不安よりも絶望よりももっと強い何かに襲われながら、心臓の鼓動が激しく乱れた。
そんなことがあるはずもないのだと懸命にその考えを押し込み振り払おうとした。
本当のことであるはずがないのだ。
本当の事であるならば自分は今すぐ気違いのように叫んでまわるだろう。
もしかしたら本当に気が違ってしまう可能性だってある。


もう二度と会わないと決めたのに。
もう二度と声を聞くこともその体温を感じることも姿を見ることすら叶わないことだと思っていたのに。
そうすることがただの自己満足にしかならない事を知っているというのに『つくし』という単語の前では何故こうも自制心だとか理性そんな高尚な言葉が出せないのだろうか。

つくしの容態が急変したのだと、そのフレーズが司を戒めるより先に司の足を動かしていた。
自分勝手で自己中心的で、またそう追い込んだのは紛れもなく自分だというのに。
恥も外聞も自尊心もかなぐり捨てて、本能だとかそんな言葉が自分を突き動かし、つくしの元に向かわせていた。



つくしの入院している病院は都内にはあったが、近辺で何やらイベントがあるのか交通渋滞に引っかかってしまい、ようやく病院へと辿り着いたのは巧からの連絡を受けてから3時間後のことだった。
もう、何もかもが終焉した後なのかつくしの身体中は呼吸器の管や点滴の管で覆われており、痛々しい手首の傷跡はギプスのようなもので塞がれていた。
医師や看護師なども出払っており、つくしの傍に座り悲痛な面持ちでいる巧の姿だけが嫌に印象に残る。

人の気配を感じたのだろうか、巧がふと振り返り司の存在を認めると幾らか殊勝な顔つきになり、つくしの側へ来るように促した。

「東城・・・副社長・・・あの・・牧野、は__

どうしても震えそうになる声を必死で隠せば途切れ途切れに言葉が紡ぎ出されるのを押さえることは出来ない。
巧は嫌悪や憎悪が入り交じった瞳を和らげることなく真っ直ぐに司を見据えた。
その瞳は涙を流した後なのか血走っており、強く噛みしめたであろう唇には血の跡が付いていた。

「まだ、意識は回復していない。
ここ一ヶ月___まるで現実世界を拒否しているかのように一向に目覚めないんだ____
医者が言うには、脳死に近い状態にあると____。」

「のうし・・・・?」

「心臓は正常に動いているし、自発呼吸はほんの少しだが時々ある___それでも呼吸維持装置を付けなければとてもではないが生きてはいけない状態って事だ____。」

「なんで___いつから____

「一ヶ月前から、だ。
あいつは___つくしは___自殺未遂を図った夜からお前の名前を呼び続けて____今朝容態が急変したときすら求めているのは道明寺司ただ一人だった。
悔しいよ。
何でこんな時すらあいつが頼るのはお前なんだ?
それが理解出来ないからお前を殺したいほどに悔しくて羨ましい。」

再び沈黙が続いた。
言いたいことは山のようにある司だったが、意を決し一番聞きたくて、絶対に聞きたくはない事柄を問おうと口を開く。

「治るんですよね。
これは___あくまでも一時的なもので____あいつはすぐに元通りになって___それで___

「もう、完全に元に戻ることはない。
担当医が____後遺症が、残るかもしれないって__

「こうい、しょう・・・・?」

「正確には高次脳機能障害とかいう___ICUで一度心臓が停止して____その時に一時的に脳に酸素が供給されなかった___恐らくは手や足なんかの身体の一部が使えなくなるか___失明したり失語症を患うケースも多いらしい。
いずれにせよ___完全に元のつくしに戻るのは___不可能だ。」

「ふか、のう・・・・?」

「__ああ、もう元には____戻らないんだ。」

『もう元には戻らない』
そのフレーズが司にとってはまるで死刑宣告をされた囚人のように絶望の更にその下まで突き落としていった。
自分の身体の細胞という細胞がその機能を示していないかのように全てが無になる感覚さえした。

「____信じねえ。」

ポツリと司が呟いた。
まるで自分が信じないと宣言すれば本当にそうなるとでも思っているかのように。

「・・・・・・道明寺・・・・?」

ここで、司は初めてつくしの顔を見た。
口に取り付けられている呼吸器を除けば、何て安らかで穏やかな表情だろう。
解放され安堵しきった人間の顔。
造形がどうとかではなくただただ美しくて高貴な顔。
触れてはいけない、近づいてはいけないと思いながらもつくしへと近づく足は止められない。

枕元にそっと手をつき軽くつくしの頬に触れる。

「信じねえからな・・・牧野。
起きろ___起きろよ、牧野。
なあ、頼むから、笑ってくれ。
お前はこれから誰よりも幸せになって___それから___それから____

胸がぎゅうっと収縮し声が上手く紡ぎ出せない。
ス、と親指で頬をなぞり上げた。
つくしの身体はひんやりとしていたが何故かつくしに触れたところが息を吹き返すように温かくなっていく。

「牧野。___牧野。
お前、怒ってんだよな?
ただのあてつけなんだろ?
なあ、牧野。俺が悪かったって。____起きろよ。」

つくしの目から一筋涙が零れる。

「・・・・・牧野・・・・?」

ほとんど同時に巧から驚愕を含んだ掠れたような声が出る。

「____つ、つくし・・・!?
お、おい・・・・道明寺・・・・・・・・・・・・・・。」

巧の視線の先に目を合わせるとつくしの腕が申し訳程度にピクリと動くのが見えた。
司は慌ててその手を握りしめると、半ば叫ぶような声でつくしに呼びかける。

「__牧野・・・?__牧野!?
聞こえるか?おい、聞こえるか!?
牧野!牧野_____

バサバサと睫が揺れ、つくしの目がゆっくりと開かれていく。
つくしの目が司の心配げな目にぶつかった刹那____つくしが何か伝えたいことでもあるかのように僅かに口を開き上下に動かした。

「牧野?牧野?____分かるか?」

司の呼びかけにも無表情と言うよりは何の感慨もないかのような顔でひたすら何かを呟いている。

「・・・・・東城副社長・・・・・医者を呼んできてもらえますか?」

「あ、・・・あ、ああ。」

未だ状況が飲み込めていない巧であったが、頭の中の不安やら何やらを払拭するように軽く首を振ると、潔く立ち上がり病室を後にした。


もっぱら神の存在など信じていない司であったがこの時ばかりはその存在に感謝しないわけにはいかなかった。
半ば浮かれたような気持ちを抑えることの出来なかった司は、この時のつくしの瞳の色の変化があまりにも希薄だったことに気づけなかった。
つくしのガラス玉のような瞳。
覗き込む人物をただレンズ状に写すだけの瞳。

そしてそれが自分にとってどういう意味を持つことになるのかも。



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Re:ハル様^^

いつもコメントありがとうございます!

そーなんですよね。
もう、つくしちゃんには巧であろうと類であろうとダメなんです!
やっぱりつくしちゃんの本能が求めているのは司なんですよねえ・・・笑

明日の更新も頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!

Re: Fumee様^^

コメントありがとうございます!^^

そんな風に言って頂けて光栄でございます!!

そうなんですよね~
この二人って切っても切り離せない絆って言うか・・・「運命」なんですよね。
もちろん、まだまだまだ続きますよ、司いじめ笑
一方的につくしが無意識のうちに発言することや行動などなど深く彼の胸を抉るでしょうね~
楽しみ楽しみ(←鬼・笑)
今Fumee様のお言葉で改めて思い直しましたが、そうですよね・・・
これって「無償の愛」なんですよね。
前半はつくしから司への。後半は司からつくしへのイノセントラブ。。。
壮絶だけどこんな恋愛一度でいいからしてみたいなあなんて思ったり・・・

司がつくしへの愛を取り戻した今!
つくしが司への愛を取り戻す日はいつになるのでしょうか笑

更新頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします♪

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